Title |
キュレーターのサイン |
Date |
2020-11-16 - 2021-01-22 |
「キュレーターは美術界の建造物であり、アーティストはそこにあるレンガと漆喰なのだ。」
ベン・ラングランズ&ニッキ・ベルは、ロンドンを拠点として1978年より共に活動しているアーティストです。 建築の設計・構造に焦点を当て、人と建物の間にある、複雑な関係性を探求する作品で知られています。 また、急速に変化する技術社会と折り合うために使われるコミュニケーションと交流に着目し、その符号化されたシステムをテーマにした作品も発表しています。
ラングランズ&ベルはある時、自分たちのスタジオのアーカイヴを整理し、アーティストとしての人生の中で、やり取りをしてきた手紙などの書類をまとめていました。その時に、活動を始めた時から一緒に仕事をしてきたキュレーターのサインに目がとまりました。 その個々が放つ特性と美しさに心を奪われたのです。 キャリアを始めたばかりの若いキュレーターから、国際的に活躍する有名なキュレーターまで、様々な人のものがあります。 今回のCCAの展覧会では、このサインを一つの作品として展示します。 それらに向き合うことで、美しさの本質が伝わるかもしれません。 奔放であふれるような表現のものから、抽象的で、わざと極限まで簡略化されたものなど、本当に色々なサインがあり、それぞれの特長が凝縮された個の表現であるかのようです。
サインは、自己の内面の世界と、外の世界の敷居に根付く、非常に個人的な表現です。 外の世界というのは、知性と感情、そして個人的な野心が、公での表現として外にさらされる場です。 最近では、文化的な会話や議論が急速に普及し、そこにより多くの人々が参加し、関わるようになってきました。 それに対応する形で、独自性と解釈において、より専門的なキュレーターの役割が次第に顕著になっています。
キュレーターの仕事と役割が、時間と共に発展し、進化してきたように、コミュニケーションの方法も、手紙、ハガキ、Eメール、ソーシャルメディア、メッセージアプリと、変化をとげてきました。これまで続いてきた、そしてこれからも続いていく社会的、文化的、技術的変化に、私たちはアートを制作し、展示することで参加しています。 サインは、そういった変化の歴史的記録であり、痕跡でもあるのです。 紙に書かれた、ただの線と見る一方で、一つひとつには、それぞれの基本的な人格がこめられています。 それを集めた今回の展示には、近年における社会の、そして文化の歴史における様々な変化を表し、伝える力があるのです。
美しさを持つ作品として「サイン」を熟考することで、このプロジェクトは、自己と、個々のアイデンティティの問題について問いかけます。 今現在、私たちの自己やアイデンティティは大きな変化にさらされており、デジタルの世界によってこれまでの姿を失いつつあります。 仮想化が増大していく世界において、サインは、身体と言語が出会うことのできる、最後に残された場の一つなのです。
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